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#VAR(Table, TABLE)
#ADDTBL("data\shiftjis.tbl", Table)
#ACTIVETBL(Table)
#VAR(PTR, CUSTOMPOINTER)
#CREATEPTR(PTR, "LINEAR", 0, 32)
#JMP($000073FC)
#WRITE(PTR, $00000BEE)
%L1
<END2>
#WRITE(PTR, $00000BF4)
プロローグ
<END2>
#WRITE(PTR, $00000BFA)
%L1
<END2>
#WRITE(PTR, $00000CDA)
INSERT01.PMF
<END2>
#WRITE(PTR, $00000E0C)
INSERT02.PMF
<END2>
#WRITE(PTR, $000010D2)
【まゆり?】
「ねぇねぇ。なにブツブツ言ってるのー?」
<END>
#WRITE(PTR, $000010E2)
右耳に当てているケータイ電話。通話口からはなにも聞こえてこない。ノイズすらない。完全に無音。
<END>
#WRITE(PTR, $000010F2)
夏の強烈な日射しを受けて。
<END>
#WRITE(PTR, $00001102)
ぽたりと、俺の{顎先}[あごさき]から汗が{一滴}[ひとしずく]落ち、アスファルトに染みを作った。
<END>
#WRITE(PTR, $0000114A)
【まゆり?】
「オカリン? ねぇってばー」
<END>
#WRITE(PTR, $0000115A)
目の前には少女。
<END>
#WRITE(PTR, $0000116A)
首を傾げながら俺に呼びかけてくる。
<END>
#WRITE(PTR, $0000117A)
どう見ても中学生にしか見えないあどけなさの残る顔つきからは、今まさに敵地に潜入しようとしているにもかかわらず、緊張感が{微塵}[みじん]も感じられない。
<END>
#WRITE(PTR, $00001190)
ケータイの通話口を手で押さえてから、俺は少女に向き直り人差し指を口に添えた。
<END>
#WRITE(PTR, $000011A0)
ちょっと黙れ、のゼスチャー。
<END>
#WRITE(PTR, $000011BA)
【まゆり?】
「誰かと電話中?」
<END>
#WRITE(PTR, $000011F6)
うなずいてから、改めてケータイを右耳へ。
<END>
#WRITE(PTR, $00001206)
電話の向こうからはやはり一切の音が聞こえてこなかった。
<END>
#WRITE(PTR, $00001216)
聞かれてはまずい会話をしているのだから、向こうも気を利かせて黙ったのだろう。
<END>
#WRITE(PTR, $00001226)
【倫太郎】
「……いや、こちらの話だ。問題ない、これより会場に潜入する」
<END>
#WRITE(PTR, $00001236)
相変わらず相手は無言。
<END>
#WRITE(PTR, $00001246)
報告を聞くだけにしたらしい。
<END>
#WRITE(PTR, $00001256)
合理的な判断だ。
<END>
#WRITE(PTR, $00001266)
この場であれこれ雑談するのは危険すぎる。
<END>
#WRITE(PTR, $00001276)
【倫太郎】
「ああ、ドクター{中鉢}[なかばち]は抜け駆けをした。たっぷりとその考えについて聞かせてもらうつもりさ」
<END>
#WRITE(PTR, $00001296)
【倫太郎】
「……なに!? “<DICT>機関</DICT>”が動き出しているだと!?」
<END>
#WRITE(PTR, $000012A6)
俺は目を見開き、驚いたような声をあげてみた。
<END>
#WRITE(PTR, $000013EE)
少女も、こちらに合わせてビクッと身をすくませている。
<END>
#WRITE(PTR, $000013FE)
というか、こっちをじっと見てるんじゃない。
<END>
#WRITE(PTR, $0000141A)
俺はすぐに深々とため息をつき、こめかみを指で押さえながら小さく首を振った。
<END>
#WRITE(PTR, $0000142A)
【倫太郎】
「そうか、それが{運命石の扉}[シュタインズゲート]の選択か。エル・プサイ・コングルゥ」
<END>
#WRITE(PTR, $00001440)
別れの合い言葉を最後に、深刻な顔のままケータイを耳から離して、懐にしまった。
<END>
#WRITE(PTR, $00001450)
{運命石の扉}[シュタインズゲート]。
<END>
#WRITE(PTR, $00001460)
それはいわば“神々の意志”あるいは“運命”と同じ意味を表す。
<END>
#WRITE(PTR, $00001470)
その存在を知る者は、世界中でも数えるほどだろう。
<END>
#WRITE(PTR, $00001480)
さてと、それでは早速、潜入するとしよう。
<END>
#WRITE(PTR, $00001490)
俺は目の前にそびえるビルへ向かって足を踏み出した。
<END>
#WRITE(PTR, $000015CC)
敵地への潜入だ、バカ正直に正面から突入するような愚を、俺は冒したりはしない。
<END>
#WRITE(PTR, $000015DC)
エレベータやエスカレータは使わず、階段を上って最上階である8階に向かう。
<END>
#WRITE(PTR, $000015EC)
だが7階まで来たところで力尽きた。
<END>
#WRITE(PTR, $000015FC)
【まゆり】
「さっき、ケータイで誰と話してたのー?」
<END>
#WRITE(PTR, $0000160C)
俺の後ろをついてくる少女├┤{椎名}[しいな]まゆりが、息を切らした様子もなくそう聞いてきた。
<END>
#WRITE(PTR, $0000161C)
俺は階段を上り切ったところで膝に手を置き、一息つく。
<END>
#WRITE(PTR, $0000162C)
階段を使うべきじゃなかったかもしれん……。キツすぎ……。
<END>
#WRITE(PTR, $0000163C)
額に滲む汗を手で拭いつつ、まゆりへと向き直った。
<END>
#WRITE(PTR, $00001684)
【倫太郎】
「聞くな。それがまゆりのためでもある」
<END>
#WRITE(PTR, $0000169E)
【まゆり】
「そうなんだー。オカリン、ありがとー」
<END>
#WRITE(PTR, $000016AE)
まゆりは嬉しそうに微笑んだ。
<END>
#WRITE(PTR, $000016BE)
こいつは実に物分かりがいい。
<END>
#WRITE(PTR, $000016CE)
俺の立場もわきまえてくれていて、深く突っ込んでくることもない。
<END>
#WRITE(PTR, $0000176C)
彼女は俺の幼なじみである。
<END>
#WRITE(PTR, $0000177C)
年齢は俺より2つ下├┤16歳の女子高生なので、幼なじみと言うより妹のような立場に近い。
<END>
#WRITE(PTR, $0000178C)
家が近所なので昔からよく世話をしてやっていた。
<END>
#WRITE(PTR, $0000179C)
まゆりには、{運命石の扉}[シュタインズゲート]の鍵という過酷な宿命を背負うことのできる素質があるのではないか。以前の俺はそんなことを考えたりもしたが、今はそれを改めている。
<END>
#WRITE(PTR, $000017AC)
彼女にはいつまでも普通でいてほしい。
<END>
#WRITE(PTR, $000017BC)
それが、今の俺のささやかな願いだ。
<END>
#WRITE(PTR, $000019DE)
8階まで上がって会場に入ると、安っぽいセットが作られていた。
<END>
#WRITE(PTR, $000019EE)
ドクター中鉢タイムマシン発明成功記念会見と銘打たれている。
<END>
#WRITE(PTR, $00001A36)
【まゆり】
「それよりオカリンオカリン」
<END>
#WRITE(PTR, $00001A46)
オカリンとさっきからやたら連呼されているが、それは別に俺の本名でもなければコードネームでもない。俺自身があまり気に入っていないあだ名というヤツだ。
<END>
#WRITE(PTR, $00001A56)
【倫太郎】
「まゆりよ、いつも言っているだろう。俺のことをオカリンと呼ぶなと」
<END>
#WRITE(PTR, $00001A66)
【まゆり】
「えー? でも昔からそう呼んでたよ?」
<END>
#WRITE(PTR, $00001A76)
【倫太郎】
「それは昔の話だ。今の俺は“{鳳凰院}[ほうおういん]{凶真}[きょうま]”。世界中の秘密組織から狙われる、狂気のマッドサイエンティストだ。フゥーハハハ!」
<END>
#WRITE(PTR, $00001A90)
【まゆり】
「だって、難しくて覚えられないし」
<END>
#WRITE(PTR, $00001AA8)
とにかく鳳凰院凶真は俺の<DICT>{真名}[まな]</DICT>なのだ。
<END>
#WRITE(PTR, $00001AC2)
【まゆり】
「それに、{岡部}[おかべ]{倫太郎}[りんたろう]と1文字も合ってないよー? おかしいね、えっへへー」
<END>
#WRITE(PTR, $00001AD2)
うーむ、実に幸せそうに笑っていらっしゃいやがる。
<END>
#WRITE(PTR, $00001AE2)
ちなみに岡部倫太郎という俺の本名は、間抜けな感じがして好きではない。
<END>
#WRITE(PTR, $00001AF2)
なのでそこから取ったあだ名である“オカリン”も同じく嫌いなのだ。
<END>
#WRITE(PTR, $00001B02)
というかオカリンって。
<END>
#WRITE(PTR, $00001B12)
銭湯に置いてある黄色い桶みたいじゃないか。
<END>
#WRITE(PTR, $00001B2C)
【まゆり】
「でね、オカリン。えっと、教えてほしいんだけど」
<END>
#WRITE(PTR, $00001B3C)
どうやらまゆりには言っても通じないようだった。
<END>
#WRITE(PTR, $00001B4C)
かれこれ5年は言い続けてきてこれだから、半ば諦めてはいるが。
<END>
#WRITE(PTR, $00001B5C)
【まゆり】
「これからここで、なにが始まるのー?」
<END>
#WRITE(PTR, $00001B6C)
【倫太郎】
「お前は、それも知らずここまで俺についてきたというのか」
<END>
#WRITE(PTR, $00001B86)
【まゆり】
「うん」
<END>
#WRITE(PTR, $00001B96)
にこやかにうなずいている。
<END>
#WRITE(PTR, $00001BA6)
東京、秋葉原駅前にある、通称“ラジ館”。
<END>
#WRITE(PTR, $00001BB6)
その8階は、イベントスペースになっている。
<END>
#WRITE(PTR, $00001BC6)
【倫太郎】
「これからここで始まるのは、ドクター中鉢の記者会見だ」
<END>
#WRITE(PTR, $00001BD6)
ドクター中鉢というのは発明家である。テレビなどにもよく登場する有名な人物で、特許数もそれなりに持っている。とはいえ世間一般の目からは所詮“色モノ”としか見られていないが。
<END>
#WRITE(PTR, $00001BF0)
【まゆり】
「記者会見? でもー、記者さんなんて見当たらない気がするよ?」
<END>
#WRITE(PTR, $00001C00)
まゆりの言う通りだった。
<END>
#WRITE(PTR, $00001C1C)
試しに奥にある会場をのぞいてみたが、記者らしい人間もカメラマンらしき人間も、1人としてここにはいない。その時点で記者会見ではなくただの発表会と化してしまっている。
<END>
#WRITE(PTR, $00001C2C)
会場にいるのは、俺も含めて手持ちぶさたで突っ立っている10人程度の男たち。
<END>
#WRITE(PTR, $00001C3C)
そう、たったの10人。
<END>
#WRITE(PTR, $00001C4C)
中鉢の知名度はそれなりのはずだし、タイムマシン開発に成功したという触れ込みなら、もっと集まってもいいはずだが。
<END>
#WRITE(PTR, $00001C5C)
【倫太郎】
「あるいは、“機関”によるなんらかの妨害を受けたのかもしれないな」
<END>
#WRITE(PTR, $00001C6C)
俺は自嘲気味につぶやき、わざとらしく唇を歪めた。
<END>
#WRITE(PTR, $00001C7C)
中鉢は元々├┤面識はないが├┤俺と同じ側にいる人間だったはずだ。
<END>
#WRITE(PTR, $00001C8C)
しかしそれを放棄して野に下った。
<END>
#WRITE(PTR, $00001C9C)
このタイミングを“機関”が見逃すはずがない。
<END>
#WRITE(PTR, $00001CAC)
【倫太郎】
「巻き込まれるのは、勘弁だがな」
<END>
#WRITE(PTR, $00001CBC)
とはいえ、ヤツがなにを語るのかには興味がある。
<END>
#WRITE(PTR, $00001CCC)
だからこそ俺はわざわざ夏休みの昼下がりという貴重な時間を割いて、ここに来たのだ。
<END>
#WRITE(PTR, $00001CDC)
俺がつぶやいた独り言に、まゆりはしばらく考え込んだ後、かなり間を置いてまた首を傾げた。
<END>
#WRITE(PTR, $00001D28)
【まゆり】
「巻き巻きトカゲ?
<END2>
#WRITE(PTR, $00001D42)
あ、それを言うならエリ巻きトカゲだねー。えっへへー」
<END>
#WRITE(PTR, $00001D56)
俺はため息をついてしまう。
<END>
#WRITE(PTR, $00001D66)
1人ボケツッコミ笑いとは実に脳天気なことだ。
<END>
#WRITE(PTR, $00001D76)
まあ、まゆりは昔からこんな感じだが。
<END>
#WRITE(PTR, $00001D86)
【倫太郎】
「まゆり、気を付けろ。おそらくこの記者会見、なんらかの事件が起き├┤」
<END>
#WRITE(PTR, $00001E28)
言っているそばから来た!
<END>
#WRITE(PTR, $00001E40)
こ、この音はなんだ!? <DICT>電磁波</DICT>攻撃か!?
<END>
#WRITE(PTR, $00001FCA)
わずかに足許が揺れた。
<END>
#WRITE(PTR, $00001FDA)
確かな衝撃。
<END>
#WRITE(PTR, $00001FEA)
上からだ。
<END>
#WRITE(PTR, $00001FFA)
だが俺たちがいる8階は最上階。
<END>
#WRITE(PTR, $0000200A)
ここより上となると、屋上しかない。
<END>
#WRITE(PTR, $00002052)
【まゆり】
「地震かなぁ? 震度2? マグニチュード2? 震度とマグニチュードってどう違うんだっけー……」
<END>
#WRITE(PTR, $0000206E)
悩み多き少女のことは放っておく。
<END>
#WRITE(PTR, $0000207E)
胸騒ぎを覚え、俺は会場を飛び出した。
<END>
#WRITE(PTR, $00002194)
立ち入り禁止なのを無視して、屋上への階段を駆け上がる。
<END>
#WRITE(PTR, $00002490)
屋上の扉はなぜか開いていた。というか、鍵が壊されていた。
<END>
#WRITE(PTR, $000024A0)
扉を開けると、見渡さなくても黒い煙が立ちのぼっているのが見えた。
<END>
#WRITE(PTR, $000024B0)
それに、なぜか虹色の燐光のようなものがキラキラと空中を舞っている。
<END>
#WRITE(PTR, $000024C0)
【倫太郎】
「爆発……だと!?」
<END>
#WRITE(PTR, $000024D0)
カッコつけて驚いてみたけど、え、ウソ、マジで爆発?
<END>
#WRITE(PTR, $000024E0)
まずい、胸が高鳴ってきた。
<END>
#WRITE(PTR, $000024F0)
ドキドキする。
<END>
#WRITE(PTR, $00002500)
ええと、ど、どうするべきだろう。
<END>
#WRITE(PTR, $00002510)
逃げた方がいい?
<END>
#WRITE(PTR, $00002520)
というかなんで爆発? テロ?
<END>
#WRITE(PTR, $00002530)
いや、そんなものではないような気がする。
<END>
#WRITE(PTR, $00002540)
なぜなら、俺の目の前├┤屋上のガランとしたスペースのど真ん中に、奇妙な物体が鎮座していたからだ。
<END>
#WRITE(PTR, $000025C2)
【倫太郎】
「なんだ……これは?」
<END>
#WRITE(PTR, $000025D2)
そこには謎の機器が鎮座していた。
<END>
#WRITE(PTR, $000025E2)
かなり大きい。高さは3メートル以上あるのではないだろうか。
<END>
#WRITE(PTR, $000025F2)
これは……人工衛星?
<END>
#WRITE(PTR, $00002602)
煙や燐光、それにさっきの揺れの原因は、これなのか?
<END>
#WRITE(PTR, $00002612)
こんな物、誰がここに置いたんだろう?
<END>
#WRITE(PTR, $00002622)
それとも、中鉢が用意したものだとでもいうのか? 今日の会見と関係があったりする?
<END>
#WRITE(PTR, $00002632)
だが、もし仮にそうだとして、いったいここまでどうやって持ってきたんだ?
<END>
#WRITE(PTR, $00002642)
ここは8階建てビルの屋上だぞ?
<END>
#WRITE(PTR, $00002652)
頭の中は疑問だらけだった。
<END>
#WRITE(PTR, $00002662)
そしてその自問には、当然ながら答えは出ない。
<END>
#WRITE(PTR, $00002672)
謎の機器に近付くべきかどうか{躊躇}[ちゅうちょ]していると、俺に続くようにして、何人かが├┤おそらくラジ館の関係者か、記者会見の係員か├┤階段を上がってきた。
<END>
#WRITE(PTR, $00002682)
そして誰もが、俺と同じように困惑した顔をする。
<END>
#WRITE(PTR, $00002692)
【鈴羽3】
「近寄らないでくださーい!」
<END>
#WRITE(PTR, $000026A2)
と、係員のうちの1人と思われる女が両手を大きく振りながら、俺たちの前へと歩み出てきた。
<END>
#WRITE(PTR, $000026B2)
【鈴羽3】
「記者会見は予定通り始めますので、もうしばらくお待ちくださーい!」
<END>
#WRITE(PTR, $000026C2)
なにかを隠そうとしている?
<END>
#WRITE(PTR, $000026D2)
対応がやけに素早い。俺を人工衛星らしき物体から遠ざけたいらしい。
<END>
#WRITE(PTR, $000026E2)
【倫太郎】
「これは匂う。陰謀の匂いだ。なにを隠したいんだ? さっきの爆発はなんだ?」
<END>
#WRITE(PTR, $000026F2)
ブツブツと声に出して考えを巡らせてみる。
<END>
#WRITE(PTR, $00002702)
気になる……。
<END>
#WRITE(PTR, $00002712)
気になるが、これ以上近付く危険は避けた方がいい。
<END>
#WRITE(PTR, $00002722)
決してビビったわけではないぞ。
<END>
#WRITE(PTR, $000028A4)
係員に誘導されるままに8階に戻る。
<END>
#WRITE(PTR, $000028B4)
まゆりの姿がなかった。イベント会場にもいない。
<END>
#WRITE(PTR, $000028C4)
探してみると、7階の踊り場にいた。
<END>
#WRITE(PTR, $000029EA)
日本におけるPC発祥の地を示すプレートがあるその横に、<DICT>カプセルトイ</DICT>がずらっと並んでいる。
<END>
#WRITE(PTR, $000029FA)
それを物欲しそうな顔で眺めていた。
<END>
#WRITE(PTR, $00002A24)
ひとまずホッと一安心してから、俺はケータイを取り出した。
<END>
#WRITE(PTR, $00002A34)
【倫太郎】
「俺だ。どうもイヤな予感がする。俺たちが知らないところでなにかが起こっているようだ」
<END>
#WRITE(PTR, $00002A44)
【倫太郎】
「……ああ、分かってる。無茶はしないさ。俺も命は惜しいからな。エル・プサイ・コングルゥ」
<END>
#WRITE(PTR, $00002A54)
改めて別れの合い言葉で締めた後、額に滲んだ汗を手の甲で拭った。
<END>
#WRITE(PTR, $00002A64)
やっべ。かなり冷や汗かいてる。
<END>
#WRITE(PTR, $00002A74)
本当になにか起こったらどうしよう。
<END>
#WRITE(PTR, $00002A84)
期待半分、不安半分というところだ。
<END>
#WRITE(PTR, $00002A9A)
ケータイをしまい、改めてまゆりを見る。
<END>
#WRITE(PTR, $00002B08)
こいつはなにをしているんだ?
<END>
#WRITE(PTR, $00002B18)
もしかしてカプセルトイに夢中なのか?
<END>
#WRITE(PTR, $00002B28)
爆発騒ぎにもまったく動じていないとは。
<END>
#WRITE(PTR, $00002B38)
とんでもない大物か、とんでもないバカかのどちらかだな。
<END>
#WRITE(PTR, $00002B48)
【倫太郎】
「まゆり、なにをしている?」
<END>
#WRITE(PTR, $00002B9C)
【まゆり】
「んー?」
<END>
#WRITE(PTR, $00002BB6)
【まゆり】
「あのね、『うーぱ』がほしいなあって」
<END>
#WRITE(PTR, $00002BC6)
予想通りか……。
<END>
#WRITE(PTR, $00002C90)
まゆりが指差したカプセルトイのマシンには、『{雷}[らい]ネット{翔}[かける] 立体キャラクタードールシリーズ』というチープなディスプレイが施されていた。
<END>
#WRITE(PTR, $00002CA8)
今や子供から大人まで知らない者はいないアニメ『<DICT>雷ネット翔</DICT>』。
<END>
#WRITE(PTR, $00002CB8)
スピンアウトしたカードゲーム『雷ネット・アクセスバトラーズ』は海外にまで人気が飛び火し、世界規模の大会が開かれるほどだ。
<END>
#WRITE(PTR, $00002CC8)
ちなみにまゆりが言う『うーぱ』とは、その『雷ネット翔』の中で最も人気がある、マスコット的キャラクターである。
<END>
#WRITE(PTR, $00002CD8)
見た目としては、卵のような楕円形でそこに手足が生えた犬っぽい生き物、と言えばいいだろうか。
<END>
#WRITE(PTR, $00002CE8)
いわゆる、ゆるキャラというものに分類されると思われる。
<END>
#WRITE(PTR, $00002CF8)
女子高生に人気が出てもおかしくない。そう言えば去年も、キモいカエルのキャラクターが流行っていたな。名前は忘れたが。
<END>
#WRITE(PTR, $00002D50)
【倫太郎】
「やればいい。『うーぱ』が当たるかどうかは保証できないがな」
<END>
#WRITE(PTR, $00002D60)
だがまゆりは困ったような笑みを浮かべたままだ。
<END>
#WRITE(PTR, $00002D7A)
【まゆり】
「でもね、まゆしぃは今、100円玉を切らしちゃっているのです」
<END>
#WRITE(PTR, $00002D8A)
まゆりは自分のことを“まゆしぃ”と呼ぶ。
<END>
#WRITE(PTR, $00002D9A)
もっと厳密に言うなら“まゆしぃ”の後には☆が付くらしい。
<END>
#WRITE(PTR, $00002DAA)
すなわち“まゆしぃ☆”。
<END>
#WRITE(PTR, $00002DBA)
まさにどうでもいいことだが。
<END>
#WRITE(PTR, $00002DCA)
【まゆり】
「だから、オカリンオカリン、100円貸してー?」
<END>
#WRITE(PTR, $00002DDA)
ねだるように、俺に向けて手の平を見せてくる。
<END>
#WRITE(PTR, $00002DEA)
どうやら最初からそれを期待していたらしい。
<END>
#WRITE(PTR, $00002DFA)
“ちょうだい”と言ってこないだけまだマシだが。
<END>
#WRITE(PTR, $00002E0A)
【倫太郎】
「甘ったれるなまゆり。金は貸さん。俺がお前に人生の厳しさを教えてやる」
<END>
#WRITE(PTR, $00002E6A)
俺は言い放つと、サイフから100円玉を取り出してコイン挿入口にセットした。勢いよくレバーを回す。
<END>
#WRITE(PTR, $00002EE0)
【まゆり】
「あ、ああー……」
<END>
#WRITE(PTR, $00002F08)
出てきたカプセルを割って中身を取り出した。
<END>
#WRITE(PTR, $00002F50)
まゆりもなにが出たか気になるようで、俺の手元をのぞき込んでくる。
<END>
#WRITE(PTR, $00002F6A)
【まゆり】
「あっ、『うーぱ』だよ。しかもメタル。『メタルうーぱ』」
<END>
#WRITE(PTR, $00002F7A)
【倫太郎】
「それはレアなのか?」
<END>
#WRITE(PTR, $00002F8A)
【まゆり】
「すごく!」
<END>
#WRITE(PTR, $00002FF8)
その『メタルうーぱ』をしげしげと眺めながら、カプセルトイの前から離れた。
<END>
#WRITE(PTR, $00003008)
俺たちの後ろで見ていた小学生ぐらいの男の子が、続いて同じ『雷ネット翔』のカプセルトイに挑戦している。
<END>
#WRITE(PTR, $00003018)
【男の子】
「あー、普通の『うーぱ』だ……」
<END>
#WRITE(PTR, $00003028)
俺の当てた『メタルうーぱ』を恨めしげに見つめてくる。
<END>
#WRITE(PTR, $00003038)
俺の横ではまゆりが目を輝かせている。
<END>
#WRITE(PTR, $00003048)
おい女子高生。小学生男児と同レベルだぞ……。
<END>
#WRITE(PTR, $000030AC)
【倫太郎】
「フン、ではまゆりにくれてやろう」
<END>
#WRITE(PTR, $000030BC)
はっきり言って全然興味がなかった。
<END>
#WRITE(PTR, $000030CC)
まゆりの手に『メタルうーぱ』を握らせてやる。
<END>
#WRITE(PTR, $000030DC)
【まゆり】
「ホントー? いいの? オカリン」
<END>
#WRITE(PTR, $000030EC)
【倫太郎】
「鳳凰院凶真だ」
<END>
#WRITE(PTR, $000030FC)
【まゆり】
「えっへへー、ありがとーオカリン♪」
<END>
#WRITE(PTR, $0000310C)
【倫太郎】
「…………」
<END>
#WRITE(PTR, $0000311C)
もしかしてわざとそこだけ無視してないか?
<END>
#WRITE(PTR, $0000314A)
【司会者】
「├┤本日は、ドクター中鉢によるタイムマシン発明成功記念会見にお集まりいただき、まことにありがとうございます」
<END>
#WRITE(PTR, $0000315A)
上の階から、かすかにそんなマイクの声が聞こえてきた。
<END>
#WRITE(PTR, $0000316A)
【倫太郎】
「どうやら始まるようだな」
<END>
#WRITE(PTR, $00003224)
8階へと向かう。
<END>
#WRITE(PTR, $00003234)
だがまゆりがついてこない。
<END>
#WRITE(PTR, $000032A2)
【倫太郎】
「行くぞまゆり」
<END>
#WRITE(PTR, $000032EA)
【まゆり】
「んー、待って待って。名前書かなくちゃ」
<END>
#WRITE(PTR, $000032FA)
どうやら『メタルうーぱ』に夢中らしい。
<END>
#WRITE(PTR, $0000341E)
【司会者】
「それでは、早速登場していただきましょう。発明家、ドクター中鉢さんです! 皆さん、盛大な拍手でお迎えください!」
<END>
#WRITE(PTR, $00003494)
まばら├┤どころかほんの数人だけの拍手に迎えられて、中鉢が現れた。
<END>
#WRITE(PTR, $000034A4)
会見場の奥に設置された壇に向かう。
<END>
#WRITE(PTR, $000034B4)
早くもかなりの仏頂面だ。不機嫌さが全身から溢れ出している。
<END>
#WRITE(PTR, $00003562)
【中鉢】
「ドクター中鉢だ。どうぞよろしく」
<END>
#WRITE(PTR, $0000357C)
【中鉢】
「それでは、ここに集まってもらった諸君だけに、人類史に残る世紀の大発明、タイムマシンについての理論をお教えしよう」
<END>
#WRITE(PTR, $000036A6)
【まゆり】
「タイムマシン? あの人が作ったのー?」
<END>
#WRITE(PTR, $000036B6)
『メタルうーぱ』に名前を書き終わったらしいまゆりがやって来て、今さらながらなことを言っている。
<END>
#WRITE(PTR, $000036D2)
中鉢は、マイクを片手に、自信満々という態度をみなぎらせて話し始めた。
<END>
#WRITE(PTR, $000036E2)
聴衆は俺を入れてせいぜい20人ほどだ。さっきより少しだけ増えた。
<END>
#WRITE(PTR, $000036F2)
だがやはり、記者やカメラマンらしき人物は見当たらない。
<END>
#WRITE(PTR, $00003702)
これが世間のドクター中鉢への注目度かと理解した。
<END>
#WRITE(PTR, $00003712)
色モノ発明家が“タイムマシンを発明した”と発表したところで、世間は“なにを言ってるんだか”という失笑で返すだけ。
<END>
#WRITE(PTR, $00003722)
俺も、この男が語ることに興味はあったが、それほど期待していたわけではない。
<END>
#WRITE(PTR, $00003732)
そしてそれは、ドクター中鉢がいざタイムマシンの理論について語り出したときに失望となり、時間が経つにつれて怒りへと変わった。
<END>
#WRITE(PTR, $000037EC)
【倫太郎】