2016年頃、「オープンソース」について包括的に語る「教科書」的な企画のオファーを受けて開かれた、筆者を含む何名かの執筆者候補を交えたミーティングがありました。
そのときは、出版社さんの求める物(GitHubの使い方など、ツールや手順の解説)と、候補者達の発信したい物(理念や開発の動機、マナーなどの解説)との乖離が激しく、残念ながら、話はまとまりませんでした1。今振り返ると、そのときの我々には「誰のために書くのか」、具体的な読者の顔が見えていなかったのだと思います。そんな状態では、議論が迷走するのも当たり前でした。
その後、OSS Gateワークショップでサポーターを務める過程で、筆者にも*「初めて実際にOSSに関わってみたいと思ってやって来た人」の顔*が見えるようになり、「ここで出会った人達に伝えよう」という、山ほどある情報を整理するための軸が1つ定まりました。
しかし、それでもまだ、「本書を読んだ人が、その後どこを目指すのか?」は判然としないままでした。読者の目先の目的が果たされても、後に続かないのでは困ります。
また、筆者の所属会社は「自由なソフトウェア」を推進していることもあり、OSS Gateの発起人でもある社長の須藤からは、「自由なソフトウェアの話にもつなげて欲しい」という意見も頂いていました。しかし、ビジョンとして大事とは思えても、「初めてフィードバックしてみたいだけの人」の動機をそこにまでつなげる筋道は見えていませんでした。
そんなときに、「わかばちゃんと学ぶ」シリーズで知られる湊川あいさんに本書のドラフトをご覧頂いて、「『#駆け出しエンジニアと繋がりたい』のハッシュタグを使っている人達に届いてほしい」という感想のお言葉を頂いて、ハッと気付かされました。自由なソフトウェアがあったからこそ、筆者はそれを教師として色々なことを学び、支えられてここまで成長できた。そのことに思い至ったのです。
本書を通じて、自身の過去の体験から何を引き出し、誰にどう伝え、どこへ導くのか。それらのことがやっと違和感なく一本の線でつながった瞬間でした。
本書は、これからコントリビューターになりたい人向けに書かれていますが、その中で、「先人達はきっと暖かく迎え入れてくれる」というようなことを、無責任にも度々述べてきました。ですので本書は、新たな参加者を迎え入れる側である、既存のOSS開発者の我々にとっての、「自分達が取るべき模範的な振る舞い」を理想込みで語っている本でもあると思っています。
右も左も分からないであろう、初めてフィードバックをくれた人達からの、要領を得ない報告に触れる日々の中で、心が荒んでささくれ立ってしまいがちな筆者にとっても、書きながら反省させられる場面は多かったです。
本書は、OSSに関わる人を継続的に増やす取り組みである「OSS Gate」の一環として、「OSS Gateワークショップ」での知見に基づき執筆されました。
OSS Gateワークショップは、初めてのフィードバックに挑戦してみたい人の背中を押すイベントです。参加希望者はフィードバック経験が無い「ビギナー」が多く、手助けする側の「サポーター」は慢性的に不足気味です。「はじめに」にも書いたとおり、昨今の情勢から定期開催は難しくなってしまっていますが、本書をきっかけにOSSに関われるようになれた方はぜひとも、サポーターとして参加してみてください。
また、筆者などの常連陣が関わるもの以外でも、ご自身の活動エリアや地域コミュニティ、会社内の有志などでの、独自のOSS Gateワークショップの開催も大歓迎です。OSS GateのWebサイトでは、ワークショップの開催手順や、開催時の様子の動画なども公開していますし、タイミングが合えば、詳しい人の協力を得られるかもしれません。既存のワークショップの形態にこだわらず、オンライン開催など、新しい可能性もどんどん模索して頂ければ幸いです。
OSS Gateは、取り組みへの参加者を随時募っています。「面白そう」と思われた方は、OSS GateのWebサイトから辿れるGitterのチャットや、TwitterなどのSNSでつぶやいている過去の参加者達に、コンタクトを取ってみてください。
本書をきっかけにフィードバックを始められた方との、OSSの世界での「再会」を、筆者は首を長くしてお待ちしております。
Footnotes
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この企画はその後、オープンソースカンファレンス発起人の宮原 徹氏などを執筆者として迎え、「オープンソースの教科書」( https://www.c-r.com/book/detail/1416 )として結実した模様です。 ↩