MakerDAOの中でリスクマネジメントは、システムのリスクを識別、分析、および軽減するプロセスです。
分散型リスクマネジメントは、MakerDAOシステムのリスクを定量化、分析、および軽減するという目標を達成するための、Makerトークンホルダーと、すべてのリスクチームの間の協力的で競争的な対話です。リスクマネジメントの分散化は、MKR投票者の意思決定からバイアスを取り除き、そして、Makerガバナンスが、システムにとって最適なものについて合意するのに役立ちます。
リスクチームは、Makerガバナンスによる意思決定の科学的な根拠として使用される、Risk Constructを作成する個人、あるいは、グループです。リスクチームは、Risk ConstructをMakerDAOガバナンスコミュニティに提出する際に、選出され加重値が与えられます。
Risk Constructは、リスクチームのデータ、リスクモデル、およびアウトプットの集合体です。これらは、リスクチームがMakerDAOシステムにおけるリスクの測定方法の加重値、関係性、および詳細を概説するためのフレームワークとして機能します。各リスクチームごとに、1つのRisk Constructがあります。
リスクモデルは、データドリブンの分析を組み入れるべきであり、MakerDAOプロトコルの詳細に合わせた財務モデルを利用することも可能です。包括的であればあるほど、加重値を割り当てるときに、Makerトークンホルダーが、より自信を持つようになります。
モデルの各部分には、その方法論、データの入手先と入手方法、および結果の分析を説明するドキュメントが含まれている必要があります。
リスクモデルは、データがモデルの仮定を反証したり、強化したりするにつれて継続的に更新されるべきです。進化するMakerDAOエコシステムと、その周囲に形成されている経済のために、それに対して競合するRisk Constructが、システムのリスクのダイナミックなところを、最も正確に捉えようと現れてきます。
はい、さまざまな種類のリスクがあるため、1つのリスクチームがプロトコル全体を確実にカバーできるとは考えにくいです。金融政策やDai Saving Rateなど、システム内のさまざまなクラスのリスクに特化したリスクチームが存在する場合があります。逆に、特定の担保の種類の評価など、より広範な分野に焦点を当てているリスクチームが存在する可能性があります。その場合は、法的リスクやオペレーショナル分析など、複数の分野に関する専門知識が必要になります。リスクチームにはさまざまな分類があり、独立したリサーチを行うが、Risk Constructを自身で提出しないチームも存在します。
透明性のあるRisk Constructを作成しシェアすることができる人は誰でも、リスクチームとして、MKRトークンホルダーによって選出されることが出来ます。
分散型リスク機能に貢献したい独立した研究チームは、Risk Constructを作成し、Makerトークンホルダーによって選出されるために申請してください。このプロセスの詳細は近日中に発表されます。
Maker財団の暫定リスクチームは、初期のRisk Construct、および他のリスクチームが使用できるドキュメント、テンプレート、およびリソースを提供することで、分散型リスクマネジメント機能の促進を支援することを目的とする、最初のリスクチームです。
加重値は、主に各チームのRisk Constructの透明性、作業の正確性、リスクモデルの厳密さ、およびMKRトークンホルダーによって決められる全体的な仕事のクオリティなど、いくつかの要因によって決定されます。透明性が高いほど、より詳細で徹底的な監査が促進されるため、加重値が高くなります。
最終的にMKRホルダーが、さまざまなRisk Constructのクオリティ、およびそれらのRisk Constructを自分たちの意思決定に組み込む手段を決めます。
リスクチームが新しいRisk Constructを提出したとき、MKRホルダーはそれを評価し、新しいリスクチームに選出するかどうか、そしてどの程度の加重値なのかを決定する必要があります。各リスクチームの加重値は、提出されたRisk Constructの全体的なクオリティーと透明性に基づきます。
新たな担保の提案は、定性的および定量的な評価を含んだ、デューデリジェンスプロセスを経ます。すべての資産には違いがあるため、明確に定義された担保評価プロセスに従って、それぞれの資産を個別に評価することが重要です。MKRホルダーによるこれらの評価の加重値は、どのRisk Constructを使用するかによって異なります。
定性的リスク分析では、相対的、または記述的な尺度を利用し、発生する可能性および発生した場合の資産への影響に基づいてリスクを測定します。資産のリスクを評価するには、資産の背後にある組織、トークンの特性、およびその他の関連する詳細を理解し評価する必要があります。これは定性的評価と呼ばれます。情報を編集するプロセスには3つ主要なパートがあります。
- 最初の担保のオンボーディングプロセス:これは取引サポートの構造、トークンの分配、および利用可能なデータなどを網羅しています。
- オペレーションの評価プロセス:これは組織そのもの、組織のオペレーショナルリスク、規制リスク、コミュニティの質などを網羅しています。
- 技術評価プロセス:これは、基盤となるテクノロジーの堅牢性とセキュリティをカバーしています。
これら3つの主要なパートに関連するデューデリジェンスは、個別の機能とレーティング等のまとめられた情報を提供します。
- チーム:コアチームとアドバイザー
- コミュニティ:センチメント分析
- テクノロジー:セキュリティと完全性のレビュー
- 市場と競争力:SWOT分析
- ビジネスモデル:構造的および法的な分析
個々の評価の結果から形成された全体的なスコアは、リスクモデルの数学的なインプットとして機能します。ポートフォリオ内の他の資産に対して判断されたスコアが、そのトークンのリスクパラメーターに対する調整係数になります。
エクスポージャーリスクとは、特定の担保対してのエクスポージャーそして、そのエクスポージャーが概して過度であるかどうかのことを言います。エクスポージャーリスクは、資産の利用可能な供給量、資産の流動性およびクオリティ評価に関連しています。CDPの場合、資産の供給の大部分が担保としてロックされていると、その後の清算によって市場に対して大きな価格の影響が生じる可能性があります。MakerDAOシステムにとってのリスクは、そのような担保価格の下落により、CDPの原資産が市場で処理できる量よりも多く清算される可能性があることです。
エクスポージャーリスクでは、トークンのフリーフロートとトークンの流動性との関係も考慮されます。フリーフロートとは、市場に流通している即時取引可能な量です。そして、市場の流動性はフリーフロートの結果です。
担保のエクスポージャーリスクのレベルは、特定のタイプの担保のリスクパラメータの1つである債務限度額と直接的な関係があります。最大エクスポージャーレベルを概算し、清算比率を与えると、Daiエクスポージャーレベルを債務限度額として計算することができます。これは、この特定のタイプの担保が元になっているCDPによって生成されるべきDaiの最大額です。
流動性リスク、または資産の流動性リスクは、与えられたトークンの、市場においての現在の流動性を評価します。特定の資産の流動性リスクを補うために、流動性調整に清算比率の値に織り込む必要があります。
ボラティリティリスクは、与えられたトークンの価格リスクを評価します。市場の流動性の水準は、取引価格の影響の増減により、資産の価格変動に影響を与えます。ボラティリティリスクは、各資産に必要な超過担保の初期額を計算するために使用され、そしてそれは、清算率に反映されます。
相関リスクは、価値が互いに高い相関関係にある資産グループに対し過度にエクスポージャーを保有していることです。ポートフォリオがより多くの非相関資産を含むようになるにつれて、相関リスクは減少します。一般的に受け入れられている原則は、多様な資産の組み合わせが、個別の資産のリスクを下げるということです。分散投資の効果は、相関性のない資産を追加することで最大化されます。相関リスクは、分散投資の効果のボラティリティとして定義されます。
価格フィードリスクは、トークンの価格情報が利用できなくなる、不正確である、または破損するリスクです。このリスクは、価格情報の出所とオラクルの2つのレベルで存在します。
オラクルは、複数の情報源からデータを引き出し、中央値を基準価格とすることで、価格フィードリスクを軽減します。そうすることで、意図的であるかどうかに関わらず、不正確な外れ値を排除します。また、Oracle Security Module(OSM)は、ステークホルダーがミスプライスやありうる攻撃を特定できるようにするために、価格フィードを遅らせることで、プロテクションを提供します。オラクルによるリスクは、価格設定データをシステム内のすべての資産で利用できるようにするための、普遍的なリスクです。参照価格を公表するために、オラクルがいくつもの冗長な価格フィード元を利用するのは、それらのフィードの提供元が障害を起こした場合の危険性を減少させるためです。
リスク資本とも呼ばれる経済資本は、企業が支払能力を維持するために割り当てようとしている資本の額です。これは、担保ポートフォリオの管理に関する基本的な情報です。
MakerDAOシステムは、CDPが当初生成したDaiの金額を調達出来ない場合に、CDP清算をカバーするように設計されています。このシステムは、そのMinting(鋳造)と販売を通じて、資本再調達としてMKRを使用することで成り立っています。各担保のパラメータは、これが起こることが、可能性が非常に低くなるように設定されていますが、通常は起こることがない出来事で、CDP不足が引き起こされるとき、経済的資本が展開されます。MakerDAOでは、これはStability Feeに組み込まれているリスクプレミアムを表します。
経済的資本の計算は、担保の種類ごとにStability Feeを計算するために使用されます。詳細については、このブログ記事の「経済資本とStability Fee」のセクションを参照してください。